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東京高等裁判所 昭和29年(う)1782号 判決 1954年10月11日

控訴人 被告人 四条貞雄

弁護人 鍜治良堅

検察官 沢田隆義

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人鍜治良堅及び被告人提出の各控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。

同第二点及び被告人の控訴趣意前段について。

しかし森林法第百九十七条の字句及び立法の趣旨にかんがみ且つ本件植栽にかかる椎茸を採取する過程について考察すると、原判決が縷々説示しているとおり、本件椎茸は右法条にいわゆる森林の産物に該当しないものと解するのが相当である。さすれば原審が被告人の本件所為に対し右法条を適用せず、刑法第二百三十五条を適用処断したのはまことに相当であり、原判決には所論のごとき擬律錯誤の違法はない。各論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 花輪三次郎 判事 山本長次 判事 栗田正)

弁護人鍜治良堅の控訴趣意

第二点原判決は判決に影響すべき重大な法令違反があるから破棄さるべきである。

原判決は森林法第百九十七条にいう「森林の産物にして人工を加えたるものとは森林の産物たる素材より製作した薪、丸太、材木等の第一次的加工品を指称するものと解するのを相当とする。蓋し之等のものは森林の産物たる素材に人工を加えたるも、未だ素材即ち森林の産物たる性質を失わないものと認むべきであるからである。之に反し、森林の産物たる素材より木炭、樟脳等所謂第二次的加工品として製造せられたるものは既に森林の産物たる域を超えたもので一般窃盗の目的となつたものといわなければならない云々」と判断し、本件椎茸は森林の産物に人工を加えたものの中に入らないとしている。しかしながら、その説明するところを見れば、本件椎茸が第百九十七条の規定する森林における産物であるかどうかという点をことさらさけている様に見える。

さきに引用した司法警察員の実況見聞調書にある如く(前録四十三丁裏)本件椎茸は下山村椎茸組合長稲葉政之が県の施業案に基いて昭和二十六年七月二十五日指令営第七の二十七号をもつて椎茸伏込場敷として山梨県有恩賜林内に借地し、佐野直徳(後に佐野孝行)が管理栽培しているのであるから、この事実からして本件椎茸が森林の産物たることは疑をいれない。この点を見のがして原判決の如く第一次加工であるか第二加工であるかを論ずるのは「贓物ヲ原料トシテ木炭、樟脳、椎茸、松根油其ノ他ノ物品ヲ製シタルトキ」は更に重く罰した旧森林法時代の概念にとらわれすぎたものといわなければならない。問題は人工の程度ではなく森林において生育栽培されつゝあるものかどうかになければならない。かく考えれば森林において生育栽培されつゝある本件椎茸を窃取することが森林において生育された樹木を伐採し、これを加工した木炭を窃取すると異なることはいうまでもないところで本件は森林法第百九十七条を適用すべきものといわなげればならない。

なお、本件は被害も少く、示談も成立(記録六十六丁)しているのであり、且つ犯行の動機も前からの計画的なものではなく偶発的なものであつて(早川勇次郎の司法警察員に対する供述調書記録四十九丁以下)さして情状も悪くないのであるから、森林法を適用するにあたつては罰金刑を選択することを相当とすると考える。

被告人四条貞雄の控訴趣意

私は昭和二十九年六月七日鰍沢支部地方裁判所に於て窃盗罪で懲役六月の判決を受けましたが、私としては森林法違反と思います故、病気療養中の為重ねて控訴致します。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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